電脳遊戯 第15話 |
画面の向こうで行われている一方的な暴力に、思わず目を背けた。 そこいるのは二人の男性。 群青色のマントと白の騎士服を身に纏ったその人物は、属国の人間でありながらブリタニアが誇る最強の騎士、ナイトオブラウンズの第七席を拝命した男。 本来騎士にはなれない属国の人間でありながらナイトメアフレームの騎乗を許されたただ一人の人物で、皇族の専任騎士、そして皇帝の騎士と本来ならば手に入れることの叶わない地位を得、ブリタニアの白き死神と呼ばれるほどの戦績を残した。それ故、真の最強の騎士は枢木スザクなのではとさえ噂されていた。 そのスザクが二人、画面に映し出されている。 全く同じ顔、同じ衣装の人間が二人。 鏡に映したかのようにそっくりな二人だが、片方は0と1で組み上げられたプログラムで、片方はプログラムの中に入った人間だった。 その二人が激しい戦闘を繰り広げているのだが、あまりにも力の差がありすぎて正視に耐えられない状況となっている。普通であればこれだけの力の差を見せつければ怯えを見せ負けを認めると思うのだが、残念なことに戦う以外の選択肢を与えられていないプログラムは、逃げることも引くこともなく無駄な攻撃を仕掛けてくるだけだった。 だからもちろん一方的な暴力の被害者はセブン、加害者はスザクである。 ルルーシュを中心に組んだ画面のため、今は四方の巨大スクリーンに等身大のスザクとセブンが映し出されていた。 不死と変わらない設定でそこに存在しているセブンだが、スザクはその事を利用し、次々と見たくもないほどえげつない攻撃を仕掛けていた。 傷の回復が早いことも死なないこともメリットではないというように、セブンの体に鉄パイプを突き刺して捻じ曲げたり、再生しても意味が無い様腕を折った後、飴細工のようにねじれた鉄パイプで固定し始めた。傷はみるみる再生するのだが、パイプが邪魔をし完治することが出来ない。徐々にセブンの動きを封じるスザクは、その残虐な行動には似つかわしくないほど明るい笑みを浮かべている。子供が虫の羽をもいでいるような無邪気な残酷さを感じさせ、見る者の心に冷たい恐怖を植え込んでいた。 ルルーシュの前で?と一瞬思ったC.C.だったが、画面を見るとルルーシュはスザクが来た事に安堵したのか、とうの昔に意識を手放し眠っていた。 だからこそのあの笑み。 だからこその攻撃。 きっと自分に対するスザクのけん制だろうと考えながらC.Cは冷めた視線で画面を見、ジュースを口に含んだ。ちらりと周りを見ると「ルルーシュ様!」とルルーシュの眠る画面にくぎ付けとなっているジェレミアと「おやおや、ずいぶんストレスたまってたみたいだねぇ」「そうですね」と、のほほんとした会話をしながらコーヒーをすするロイドとセシル。 画面に映し出されるグロ映像に青ざめているプログラマー4人は明らかに震えていた。 何にせよ、魔王に相応しい頭脳を持った皇帝と、体力馬鹿の騎士がそろったのだ。 その上プログラマー4人も引き込めた。 ルルーシュの怪我と疲労以外問題は無いなとC.C.はピザ味のクッキーを口にした。 その考えが甘い事を知ったのは、ルルーシュの意識が戻ってからだった。 『どうにか出られそうだな』 安堵したような息をつき、ルルーシュはそう言った。 『そうだね』 ルルーシュの唯一の騎士であるスザクは、明るい笑顔で答えた。 その笑顔の裏に隠れている残酷さを散々見せられたため、童顔男の人のいい笑みに騙されているのはルルーシュだけだった。 そんなルルーシュは画面上ではセブンのマントを、実際はナイトオブゼロのマントを身につけ、その持ち主であるスザクに背負われている。 男一人背負っているというのにそれを感じさせない足取りで移動するのは、プログラムの世界だからなのか、単純に体力馬鹿だからなのか。 意識が戻るまではいわゆるお姫様だっこで運ばれていたルルーシュだったが、意識が戻った段階でそれを真っ赤な顔で断固拒否した。そんな姿を皆に見られていた事に、恥ずかしさで身もだえていたのは眼福だったが、誰も口には出さなかった。 残念ながら少し眠ったぐらいでは体力はあまり回復せず、いまだレッドゲージ。 スザクが運ぶという言葉を拒否しきれず、渋々背負われている。 ちなみにスザクはルルーシュを背負って歩いても、ずっとオールグリーンだった。 『あ、あれ見てルルーシュ、また何かあるよ?』 金庫のような扉に何やら暗号が刻まれていた。 ルルーシュをその背から降ろしたスザクは、真剣な表情で暗号を見つめるルルーシュの邪魔にならないよう一歩下がった状態で辺りを見回したが問題はなさそうだと判断し、軽くなった体を伸ばし軽くストレッチを始めた。 今回の暗号は難解らしく、ルルーシュは眉を寄せ、画面向こうのC.C.たちも頭を抱えながら、あーでもないこーでもないと話し合っていた。 『・・・だよね』 そんな中、スザクはポツリとつぶやいた。 『どうした?』 視線は暗号に向けたままルルーシュは尋ねた。 『日本では刀と鞘で表したりするけど、ブリタニアなら剣と鞘だよね?』 突然スザクはそんな事を言い出した。 『確かにそうだが、何の話だ?』 『やっぱり剣って鞘があってこそだと思うんだ』 ルルーシュの問いには答えず、スザクは真剣な声でそう言った。 『抜き身の刃は危険だからな』 ちゃんと管理されていればいいが、そうでなければ危険だ。 それに鞘がなければ刃が痛むし錆びてしまう。 『・・・!そう、だから専用の鞘って必要だよね』 スザクは一瞬なぜか息をのんだ後、嬉しそうにそう尋ねた。 『そうだな』 形の合っていない鞘だと剣に傷が付く恐れもある。 だから鞘は剣の形に合わせて作られるべきだ。 『僕の剣の鞘はルルーシュなんだ』 スザクは穏やかな声で言った。 『・・・ああ、そうだな』 言われてから、ああ、あの剣の話しかとルルーシュは思い当たった。 ゼロレクイエムに使用するあの剣に鞘は無い。 仮の鞘は用意しているが、一時的に使われる代用品にすぎない。 そもそもルルーシュの身に埋めるために作られた剣なのだから、その剣にとってはルルーシュの体は鞘のような物だ。 ゼロの象徴として飾られる事はあっても、ルルーシュを殺害した後は鞘に納められる事も、使用される事もない剣。 悪逆皇帝を討ったゼロの剣として、博物館にでも飾られるかもしれない。 だが、同意を示したルルーシュの言葉に、スザクはまた一瞬驚いたような顔をした。 『・・・っ!やっぱりそうだよね、君が(僕の)鞘なんだよね』 『ああ、(あの剣の鞘は)俺になるんだろうな』 だが、こんな会話をして大丈夫なのだろうか?関係の無い人間もいるのに。 そう思いながらもルルーシュは暗号へと視線を向けた。 スザクはそんなルルーシュの姿をそれはもう嬉しそうな笑顔で見ていた。 画面の向こうにいるC.C.は、先ほどからのこの主従の会話に違和感を感じていた。 特に最後のやり取りには(幻聴)が聞こえていた気がする。 気のせいであってほしいが。 「スザク君、あの剣の鞘が欲しいのかしら?確かにちゃんとした鞘は用意していませんが・・・」 セシルもゼロの剣の鞘の話だろうと思い至り、そう口にした。 「う~ん、そういう話なのこれ?なんかおかしくない?まあ、それならそれで、今から作ればいいんじゃない?まだ時間もあるんだし」 なんかそういう意味には聞こえないんだけどなぁ。 人の心の動きに興味など欠片も無いはずのロイドの言葉にぎくりとしたC.C.は「いや、まさかな、それはないだろう」と冷や汗を流した。だが考えれば考えるほど、自分の予想と(幻聴)が正解なんじゃないかと思えた。 「あら?ではどういう話なんですか?」 首を傾げながら尋ねるセシルにC.C.は思わず低い声でいった。 「どうもこうもない、おそらく・・・」 『ここから無事に出たら、(僕の)鞘になってくれるって事でいいんだよね』 『そうだな、ここを出たら(ゼロレクイエムで)そうなるだろうな』 やっぱり(幻聴)が聞こえる。 「おそらく、だが」 C.C.はルルーシュ達には聞こえないよう声をひそめる。 その表情は苦虫をかみつぶしたように歪んでおり、皆一様に息をのんだ。 「これは・・・枢木のプロポーズだ」 「「「は!?」」」 全員が一斉にあげた声に、画面の中の二人が驚き辺りを見回す。 『何かあったのか?』 「いや、何も無い。すこし皆を驚かせてしまったらしい」 C.C.はそう言いながら、静かにしろ!という様に口元に指を立てた。 ルルーシュは、驚かすなといった後また暗号に視線を向けた。 「だがC.C.、今の会話でどうしてそうなるんだ!?」 ジェレミアはこちら側のマイクを手で押さえながら聞いてきた。 「枢木スザクは日本人だ。一度離れた夫婦が再びよりを戻す事を元の鞘に納まるというように、刀を男、鞘を女という意味合いで・・・まあこの場合鞘も男だが、言っている」 「そんな言葉があるのか!?」 「抜き身の刃、という言葉で言うなら、ルルーシュは普通に刃物に対する言葉で使ったが、敵味方関係なく周囲を攻撃する事も示す言葉でもある。だが、隠語では・・・男のモノを指すんだ」 予想外の言葉に、皆が目を丸くした。 「そして、あの会話の流れではルルーシュがプロポーズを受けたとあの馬鹿騎士は考えているだろう。いいや、わざと解り難い言い方をした上に、ルルーシュが完全に勘違いしている事にも気付いたうえで、そう解釈している。たとえルルーシュが拒んでも承諾したじゃないか、という為にな」 C.C.は不愉快そうに顔を歪ませ言い捨てた。 |